川尻善昭公式サイト

Interview

Long Interview 川尻善昭自作を語る

監督デビューとなった『SF新世紀レンズマン』から30年。そのあゆみを川尻監督自らの言葉でたどる。

取材・構成 藤津亮太
編集・構成 T.meiri

第2部 『妖獣都市』から『バンパイアハンターD』へ 第4回 映画なら『D』をやります

3人の監督による競作だった『ザ・コクピット』

'87年から'93年ごろまでは、ほぼ毎年監督作がリリースされる感じですね

『OEDO』3本を1年くらいで作ってるのかな。ちょうどそういう時期だったんでしょうね。かなりのペースで仕事をしていますね。

'93年だと『獣兵衛』の前にOVA『ザ・コクピット』の中の1編「成層圏気流」を手がけています。『ザ・コクピット』は、松本零士の「戦場まんがシリーズ」の中から3作品を選んだオムニバスですが、これは好きな原作を選ぶことはできたんでしょうか。

できました。好きなものを選んでいいってことでした。マッドハウスとほか2つのスタジオ(ジャコム、ビジュアル80)で競作するオムニバス企画だってことで、それもとても面白いなと思いました。

「成層圏気流」を選んだ理由は何だったんでしょうか?

3つのスタジオでそれぞれ制作するってことですから、それに応えるなら、自分のカラーが一番出しやすそうな作品を選ぶのがいいかなって。単純に好きな話を選ぶのなら、それはそれでいっぱいあるんです。泥臭い作品か、そうでない方にするかなら、今回はそうでない方が持ち味が出せるだろうと

「成層圏気流」はメルヘンナーという女性キャラクターが登場して、3本の中でも、いちばん松本美女の印象が強い作品ですよね。

松本零士先生の絵自体が好きだったから、そんなには抵抗なく描けました。松本零士先生のクセってこういう感じだよねって、自分なりに捉えられていたと思うから、スムーズに描けたかなと思います。

それもあってですか? 久々にキャラクターデザインと作画監督も担当しています。

そうですね。短編だし、そんなにキャラクターが動く作品でもないので。どっちかというと動かさなくてはならないのは飛行機で、そこは長濱(博史)くんに任せて(笑)

飛行機を長濱さんに任せる、というのはどうして決まったんですか。

箕輪(豊)くんから、長濱くんを薦められました。『ロードス島戦記』で接点があったんじゃないかな。それで本人に尋ねたら、「やりたいです」って言ってくれたんですよ。

このインタビューの中で、仕事の仕方として、川尻監督自らがどんどんレイアウトやラフ原画を描いてしまって、それをアニメーターに渡すという方法をとっているという話がありました。「成層圏気流」の時もそのやり方をやっていたのでしょうか?

いや、「成層圏気流」の時は原画マンが揃っていたので、そのやり方はしていない。こっちでレイアウト・ラフ原画まで描いちゃうのは『ゴクウ』の1本目までですね。

『バンパイアハンターD』が実現するまでの間に

企画用キービジュアル(このセル画イラストはバンパイアハンターDの企画開発時に作成されたものです)

        

'93年に『ザ・コクピット』と『獣兵衛』がリリースされると少し監督作の間隔があきます。このあたりは裏側で何か進行していたんでしょうか。

        

『バンパイアハンターD』ですね。

ああ、このころから『D』の企画は進んでいたんですね。

『獣兵衛』が終わった直後に次は劇場をやろうかっていう話が出ていたんです。たぶんビデオテックで『獣兵衛』のマスター作業をやってる時だったと思うんだけれど、そこで即答で「映画なら『D』をやります」って言ったんです。菊地(秀行)さんとも話をして「『D』をやるなら、『妖殺行』をやりたい」って、お話に行きました。なので、脚本もわりとすぐに自分で書き始めました。

だからその間のお仕事は比較的単発のものが多いんですね。

絵コンテや原画を手伝ったり、キャラクターデザインだけをやったり。「準備が整ったら、いつでも『D』に入れるようにしておこう」ってことだったので。だから逆に同時に5タイトルぐらいに関わってる時もあったりしましたね

この時期だと『MEMORIES』の Episode.2「最臭兵器」の監修や『劇場版X』の原画などもやられています。

『劇場版X』は後から原画に入ったんですよ。『X』は(鬼咒)嵐が出てくるのシーンとかを描きました。でもまだまだ膨大なカットが残っていて、これは公開までに絶対上がるはずないって、みんなで思ってました(笑)。ちゃんと間に合いましたけどね(笑)。

後にTVシリーズを監督することになろうとは。

思いませんでした(笑)。

「最臭兵器」の監修というのはどういうことをやられたんですか?

岡村くんが監督やるってことで、少しアドバイスしたくらいかな。作品は岡村くんの味がちゃんと出ていて、よかったですよ。いずれにせよ、たいしたことはしてないと思うんですが、一番大変なシーンの原画は回ってきましたね(笑)

どこを担当したんですか。

最後の主人公がトンネルを突破しようとするあたりです。

実際に『D』が公開されるまでには結構時間があいています。

やることは決まったけれどビジネス的な条件が整うまでに時間がかかったんです。それで間があくのはもったいないので、プロデューサーが『鉄腕バーディー』をやったらどうだ、と。

そういう経緯での『鉄腕バーディー』だったんですね。

原作が面白いからその雰囲気を大事にして、正統派の少年マンガをやってみようということでやらせてもらいました。

キャラクターデザインは後に『カードキャプターさくら』などを手がけることになる高橋久美子さんです。

自分がそれまでやってきたのはアダルトな路線じゃないですか。そういうスタイルじゃないものをということで、タッチも原作に近いところでやりたいなって思ったんです。

全4話のシリーズでした。

自分は監督として方向付けをまずやって、全4話中、第1話と第3話だけを自分でコンテを描いて、あとの半分は、浅香(守生)くん、林(秀夫)くんに任せていますね。あと、自分がやりたかった正統派少年マンガ路線で締めくくるために、第4話の脚本を書きました

『バンパイアハンターD』のデティールが多い重厚な表現

では、改めて『D』について聞かせてください。原作第3巻にあたる『D-妖殺行』を選んだのはどうしてですか。

映画のテンポに一番向いている題材なんです。あと設定。『吸血鬼ハンターD』っていうのは設定がややこしいんですけれど、それを整理して見せられる作品でもある。やっぱり小説の面白さと、映画の面白さは違いますよね。そしてファンの人だけでなく、『D』というものを知らない人にも見てほしい。となると小説で設定の説明をしているくだりをアレンジしなくてはいけなくなるし、時には説明そのものをしないでいいように工夫する必要があったりする。『D』の場合は、人間が滅びて貴族(吸血鬼)が栄えて、その貴族もまた滅びかけて……といういきさつがありますよね。その前提をくどくど説明したくないんですよ。それで1枚の宇宙船の絵を見せて、そこにナレーションを重ねることだけで大前提を済ませました。『妖殺行』であればそれだけで大丈夫なので。こんなふうに前提をなるべくコンパクトに見せてしまうのが映画としては必要な手口なんです。

『D』という作品の魅力をどこに感じましたか。

やっぱり、世界観自体が非常に特異ですよね。主人公がダークヒーローという設定も、当時としてはユニークだったし。さらに天野(喜孝)さんのああいうイラストも魅力的だし。やっぱりアニメーションでやる以上、日常からかけ離れた妖美な世界のほうが面白くなります。そういう要素がアニメーションならではの武器になるんですね。そんなふうにいろんな要素が詰まった原作だから、自分には向いていると思ったし、今のアニメーションの技術で『D』の世界を完成させたいという気持ちがありましたね。

完成した作品はとても重厚で、美術もキャラクターも細部まで描き込まれていました。

『D』はゴシック世界だし、天野さんの繊細な世界もあり。それを踏まえて、僕らスタッフがイメージした世界をそのまま再現したいって考えると、キャラクターのデティールも背景の密度も『D』の世界の中では必要な要素だったんです。

キャラクターデザイン・作画監督は『獣兵衛忍風帖』に続き箕輪さんです。

彼も天野さんの絵が大好きだっていうし、もうやるとしたら箕輪くんしかいないっていうのがありました。『獣兵衛』でコンビを組んで彼の持ち味も分かっていたし、彼も僕の方向性や求めるものも分かっていましたし。ましてやキャラクター原案が天野さんだから、どういうビジュアルを目指すべきか、スタッフ全員がスムーズに入れたのではないかと思います。

『D』は作画枚数も多かったんではないでしょうか?

いや、そんなに枚数は使ってませんね。基本的にいわゆるリミテッドアニメーションですから。ただ、少ない枚数なんだけれど「動いてない」とはいわせないような見せ方は、虫プロで勉強しましたから。だからすごく動いているような印象があっても、全然動いてないです。そうなったのは、やっぱり絵の密度に一因がありますね。原画チェックしていて、ここでもうちょっと動きを足したいなっていう時があっても、原画さんはあの密度のキャラクターを描くだけでいっぱいいっぱいでね。そこにさらに足していくということはなかなか難しくて。最初はもっと動かそうと思っていたんです。それまであんまり動かしてこなかった欲求不満も解消したかったし。だから最初は「これ、動画枚数は10万枚を超えるよ」っていう話もしていたんです。でも実際に始めてみると、あのスケジュールとあの密度では、出来上がったものがいっぱいいっぱいでしたね。

すると作画枚数は何枚ぐらいだったんですか。

7万枚は超えてないと思います。『劇場版X』よりもかなり少ないんですよ。『X』は10万枚を越えてるし、すごく動いていますよ。

【バンパイアハンターD 作品資料集】





技術的な集大成を目指した作品だった

ラストにカーミラが登場する展開は、原作とも異なっています。あれはどういう経緯で変更しようということになったんですか。

まずそもそも原作はラストの舞台が城ではなく、辺境第98セクターにあるクレイボーン・ステイツという宇宙港だったんです。でも吸血鬼ものの定番としてお城を出したかった。それでお城に尖塔がロケットになるっていう仕掛けになったんです。で、脚本の段階では、その城には貴族の時代から眠り続けてきたコンピューターがあって、ホログラフで吸血鬼たちが登場するっていうのがクライマックスのアイデアだったんです。

コンピューターが最後の敵だったんですね。

そうなんです。ネットワークの世界にDと相手が入り込んで戦うみたいなアイデアでした。でもプロデューサーがそれはイヤだと。それでどうすればいいか考えたんですが、Dが追う吸血鬼マイエル=リンクは人間の少女シャーロットに恋をしてしまった特別な吸血鬼。しかもシャーロットの血を吸おうともしない節度もある。それに対して、吸血鬼映画の定番として正統派の吸血鬼を出せば、敵役として成立するんじゃないかと考えたんです。それでカーミラというキャラクターが出来上がったんです。これは今振り返ってみても正解だったと思います。だから城の中に入ってDが母親の幻想を見たりするくだりは、きっとコンピューターが仕掛けたものなんではないかと思っているんです。

シャーロットも原作では名前のない少女だったのを変更しています。

シャーロットは禁断の恋を成し遂げるために、お互いのことしか考えられないところまでいっちゃっているキャラクターなんですよ。そのために人も死んだりしているわけで、もう一人のヒロインであるレイラはそこを許せなかったりする。そうして考えると、シャーロットは、そういうことの責任を自覚することも含めて、ちゃんと自分の意志の強さで貫き通すキャラクターのほうがいい。それで原作の幼い感じの少女よりも年齢を上げて、まわりになんと言われようと貫くキャラクターにしました。そうでないと説得力がないかなって。ただその分、観客の、特に女性から見ると、我が儘だと受け止められて、作品にひっかかりを感じる可能性もあるわけで。そこはどう受け止められるか心配していた部分でした。

そのような改変などについて、菊地先生と何か打ち合わせとかはされたんですか?

いや、最初にご挨拶させていただいた時に、お任せしますと言っていただいて、その後は打ち合わせなどしていません。もちろん脚本はお渡していますので目を通されていると思います。

この作品は「弱そうに見えたものが強く」とか「悪に見えたものが善である」とかイメージが覆るおもしろさがあります。

そうですね。だから上手くいったんです。

『D』には一部で3DCGを含むデジタルの効果も使われています。

当時はまだ手探りで、城の中の螺旋階段のところは3DCGで組んでみたんですが、なかなか欲しい絵にならなくて苦労しました。実はウソなんだけれどリアリティがある画面を作りたいというようことなんだけれど、そういう理屈に合わないレイアウトになると、この絵ではできませんっていう話が出てきちゃうんです。今ならもっと楽にできるんだろうけれど。あとデジタルを使えるカットが限られていたんで、最初の段階で決め打ちで使ったんです。コウモリの群れは自分でもかなり描きましたけれど、デジタルに助けられたところも多かったです。

完成した『D』を振り返ってみていかがですか?

『D』は内容的にも技術的にも僕の集大成の作品になったと思います。このキャラクターを描けるのは箕輪くんしかいない、この背景を描けるのは池畑祐治さんしかいない、そういう力のあるスタッフが結集してできた作品でもあります。箕輪くん以外にも浜崎(博嗣)くん、阿部(恒)くんが作画監督として参加してくれて最強のメンバーでした。素晴らしいプロフェッショナルなスタッフたちが、僕が考えている以上の力を発揮してくれたおかげで、『D』は劇場映画になったと思います。

© 2001 トライストーン・エンタテイメント/菊地秀行/バンパイアハンターD製作委員会