川尻善昭公式サイト

Interview

Long Interview 川尻善昭自作を語る

監督デビューとなった『SF新世紀レンズマン』から30年。そのあゆみを川尻監督自らの言葉でたどる。

取材・構成 藤津亮太
編集・構成 T.meiri

第2部 『妖獣都市』から『バンパイアハンターD』へ 第2回 『COM』の衝撃

マッドハウスの美術とハードボイルド

そもそもどういう経緯で『妖獣都市』に男鹿(和雄)さんが参加されることになったのでしょうか。

男鹿さんはもともと小林プロダクションの所属だったんです。設立したばかりのころのマッドハウスは東京ムービーの仕事が多くて、『ガンバの冒険』などの美術監督をされた小林七郎さんの小林プロのメンバーとも接点があったんです。その後、男鹿さんがフリーになったタイミングで、マッドハウスで仕事をするようになり『はだしのゲン』で美術監督を担当し、同じ小林プロ出身の青木勝志さんが美術監督をやった『(SF新世紀)レンズマン』に美術スタッフとして参加してくれた……という流れなんです。だからマッドハウスっていうのはずっと虫プロ中心だったんだけれど、東京ムービーと接点があったことで、Aプロダクション(東京ムービー傘下の制作会社)や小林プロの人と知りあうことができた。その後『レンズマン』でさらにフリーの原画マンである森本晃司くんだったり、梅津泰臣くんだったり、メカ設定の渡部隆くんとかが参加してくれて、さらにスタッフの繋がりが増えて。それでスタッフが厚くなって、マッドハウスとしては後々本当にいろいろ助かるわけです

マッドハウスは'80年以降劇場作品が増えていきますよね。

あのころのマッドハウスは美術王国だったと思いますよ。青木さんが『ユニコ 魔法の島へ』で、男鹿さんが『はだしのゲン』でそれぞれ美術監督をやってるし、そのほかの作品の美術スタッフとしても参加していて。青木さんは『浮浪雲』に、男鹿さんは椋尾篁さんが美術監督だった『幻魔大戦』『カムイの剣』に参加している。美術ってアニメーターより人数が少ない“小さい村”なんですよ。だから、誰かが美術監督をやるとなると知り合いのうまい人たちがなにもしなくても集まるんですよ。

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妖獣都市 美術ボード

川尻監督の作品では青木さんも美術監督をいくつか担当しています。青木さんと男鹿さんは共通点がありますか?

青木さんと男鹿さんは全くタイプが違うんです。小林さんの美術のダイナミックなテイストは、男鹿さんが一番引き継いでいると思う。そういう意味では正統派の小林プロ出身者だね。青木さんは繊細な画風で小林さんとは全然違うタイプなんです

『妖獣都市』は暗いシーンが多いですが、暗いシーンを見せる上での工夫はありましたか。

TV放送だと暗いシーンを見せるのはいろいろあって難しいかもしれないですけれど、映画と同じでOVAを見ようとしている人はちゃんと集中して見てくれるだろうという前提で思い切り暗くしても大丈夫だろうとは思いました。ただ、本当に見えなくなっちゃうと困るで、コントラストを強くして。それこそ工藤栄一監督(代表作『十三人の刺客』『大殺陣』など)の作品の照明じゃないけれど、明るいところは思いっきり明るく。横から照明を当てているみたいにね。そういう形にはしている。

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妖獣都市 ラストシーン背景

エンディングのタイトルバックは、暗い赤で描かれた街ですね。

あれはモノクロでハイコントラストな街の風景を描いてもらって、赤パラ(パラフィン=撮影時に色をつける素材)で赤くしているんです。やっぱりビビッドな赤はフィルムの中でグローしちゃう(滲んでしまう)ので、クレジットがのるエンディングで赤い背景を使うのは危険だなと。モノクロで赤パラをかけたほうが、色が落ち着くんでそうしたんです。

お話をうかがっていると、尺が急に伸ばすように言われた以外はすごく楽しいお仕事だったようですね。。

その通りです。ポンポンとアイデアもでてきたし、自分の好きなハードボイルドタッチでいきたいっていうのがあったから自信もあったし、心地よくもあったし。僕が思っているハードボイルドって、登場人物の心情も含めて、シーンをスパンと切ってしまうような潔さとかそういうものなんですよ

情緒を引っ張らない感じで。

そういうシーン替わりのテンポ感はすごく意識して。フェードアウトはそれなりに多用していると思うんですけれど、そういうクールでハイテンポなタッチで進めたいというのはありましたね。

大人向けのエンターテインメントということで、セクシーなシーンもそれなりのボリュームであるわけですが、そのあたりはどう考えて演出されましたか。

やっぱりこの世界観の中でそれがないほうが不自然だし、原作もかなりセクシーですから、きちんと再現していきたいなというのはありました。ただどこまで表現していいかは微妙な部分でもあるし、ある程度の調整も必要ですしね。ただ、単なるエログロだけになるっていうのはイヤで、最終的にはきれいにまとめたいっていうのはありました。一本の映画を見終わった後の心地よさを大事にしたかった。そこについてはほかの作品でも同じことを思っています

『魔界都市<新宿>』の恩田尚之氏と『COM』の衝撃

菊地秀行原作だとその後に『魔界都市〈新宿〉』がありますが、これはまたテイストが違いますね。

『魔界都市』はジュブナイルですからね。『妖獣』は中学生とかには見せてはいけない作品じゃないですか(笑)。それより幅広い世代に見せられないかということで、『魔界都市』の原作が選ばれたと思うんです。ただ今見返すと、主人公の十六夜京也がもうちょっとハジけたキャラクターかあるいはもうちょっと情けないとか、そういう特徴があってもよかったかもしれない

『妖獣都市』で滝蓮三郎を演じた屋良有作さんがメフィストを演じています。

あれはよかったと思うんですよね。屋良さんはすごく低くて深くていい声なんだけれど、どこか明るいの。そこがまず滝という役柄として気に入ったポイントだった。滝には人間的な弱いところもあるからね。麻紀絵は人間離れした冷たいトーンでグーッと、藤田淑子さんに起伏なく演じてもらって、それと対比になるようにと。

『妖獣都市』は川尻監督自身がキャラクターデザイン・作画監督もやられていますが、『魔界都市』は恩田尚之さんが作画監督ですね。

恩田くんにお願いできたのはよかったですね。OVAの『魔龍戦紀』だったかな? それを見てお願いしたいと思ったんです。自分の絵とも近いし、それでいて僕より全然うまいから。

キャラクターデザインは、川尻監督自身ですよね。

そうですね。こちらでラフデザインだけ描きました。本当は恩田くんにゼロから描いてほしかったんだけれど。その前の仕事がなかなか終わらないということで、スケジュールとの兼ね合いでこちらで先行して作業をしたんです。

『妖獣都市』と『魔界都市<新宿>』の間に'87年のOVA『火の鳥 宇宙編』があります。これは前年にりんたろう監督の『火の鳥 鳳凰編』が映画として制作されていますが、その流れで企画がたてられたのでしょうか。

そうだと思います。シリーズだと聞きましたが、企画段階のことはわかりません。僕のところに話が来た時には『宇宙編』でよろしく、と。

当然、原作の『火の鳥』は読まれていたわけですよね。

それはもちろんですよ。高校生ぐらいの時かな、『COM』(1967年から1973年まで虫プロ商事から発刊された漫画雑誌)で読んで、衝撃的でした。こんなにスペクタクルな物語をマンガで作ってしまうんだって。これからマンガはすごい方向に変わっていくんだなって感じました。

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『COM』1971年11月号)

やっぱり『COM』の存在は大きいですか。

ものすごいコマ割りを手法として使っていたり、今のマンガへの影響も大きいけれど、僕らへの影響はものすごく大きいですね。だからマンガが子供向けだっていうところからはじまって、それが読者の成長とともに変化してきている。それを実感させてくれる雑誌だったんです、『COM』は。そういう変化があったからこそ、その延長線上の出来事として『妖獣都市』とかの世界もアニメで作られるような時代がやってきたと思うんです、その流れの源流の所にあるのは、『COM』に掲載された一連の作品ではないかなと思います。

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