川尻善昭公式サイト

Interview

Long Interview 川尻善昭自作を語る

監督デビューとなった『SF新世紀レンズマン』から30年。そのあゆみを川尻監督自らの言葉でたどる。

取材・構成 藤津亮太
編集・構成 T.meiri

第1部『獣兵衛忍風帖』第4回 生きている獣兵衛の世界

洋画の吹き替えに影響を受けた

山寺宏一さんほかのキャスティングはどのように決まったのでしょうか。

僕はまだこの時、山寺さんのお名前をまだ知らなかったんです。当初は『電脳都市OEDO80』のセンゴクを演じてもらった石丸博也さんのちょっと力の抜けたところがいいなと思っていたんですけど、池口君や丸さん達プロデューサー陣の推薦もあって、お願いしたんじゃないかと思います。でも山寺さんは本当にうまくて、声色も本当に七色使い分けられますしね。納谷悟朗さんのルパン三世の銭形警部役を引き継いだのを聞いて、すごく自然で驚きました。ほかの役者さんは、僕のキャスティングリストどおりです。郷里大輔さんは『ゴクウ』、青野武さんは『妖獣都市』、篠原恵美さんは『電脳都市OEDO808』と、いずれもその前に出ていただいていますね。濁庵は永井一郎さんという考え方もあったと思うんですが、ここはもうちょっとうさんくさい雰囲気が強い青野さんにお願いしようと。それで永井さんは道陣という冒頭の敵役をお願いすることにしました。

川尻さんは絵の作業をしている時から、声のイメージを持っているのでしょうか。

僕は子供のころからずっとテレビで外画の吹き替え版を見ているわけです。だから外画に出てきたキャラクターのこの俳優はこういう役者さんが吹き替えていたというイメージが体の中に染みついているんです。なのでお願いする時も、吹き替えで覚えた役者さんがまず名前がでてくるんです。そうなるとベテランの方が多くなるのでキャスティング費がどうしても増えてしまったりするんですが(笑)。

川尻作品が大人っぽいムードなのはそのあたりも一因がありそうですね。

吹き替えで一番好きだったのがナッチャン、野沢那智と田中信夫さん。田中さんは『コンバット』のサンダース軍曹ですね。このお二人は、本当に好きだったので、半端な役柄ではお願いできないという気持ちが強くて、そうこうしているうちに野沢さんのほうが亡くなられてしまったりして。

屋良有作さんは、川尻作品の常連という印象もあります。『獣兵衛』でもちゃんと出演されています。

屋良さんは本当にいい声をしているなと思うんです。『妖獣都市』の時は、デモテープを聞いて屋良さんに決めたんですが、まだ大きな役をそれほどやられていない時期だったと思うんです。それでアフレコでは、永井さんが、ものすごく屋良さんをフォローしてくださって。……そもそも『妖獣都市』って音響監督がいないんですよ。いないというか自分がやっていたんです。

ええ、そういえば音響監督ってクレジットはありませんね。初監督でいきなり音響監督兼務なんですか。

初めての監督作品だから君がやれってプロデューサーにいわれたんです。今思うと、予算の都合だったんじゃないかなと思わないでもない(笑)。そんなんだから、音響用語もまだ慣れてないし、役者さんに伝えるための言葉みたいなものも拙かったんです。永井さんはそういう新人監督の翻訳役もやってくださりつつ、屋良さんにもいろいろ声をかけてくださって。非常に助けていただきました。

『獣兵衛』の効果音や音楽についてはいかがでしたか。

音響効果は柴崎憲治さんですよね。『OEDO808』やこの後の『鉄腕バーディー』でも一緒に仕事しています。柴崎さんは今は実写のほうに行って、『アウトレイジ』とか『ALWAYS 三丁目の夕日』なんかを担当されている方で、本当にプロなので、細かく音をつけてくれて、もう安心してお任せできる感じでした。和田薫さんの音楽は、和楽器を中心に使っていたこともあって、時代劇らしい時代劇って感じがありますよね。あと先生であった伊福部昭さんの香りもある。選択肢としてもうちょっと新しい感じの路線もあり得たのかもしれないですが、全体としては気に入ってますよ。

ずっと一緒にいる『獣兵衛』の世界

死なないという弦馬をどう倒すかは最初から考えていたんでしょうか。

どうだったか……。脚本の時はわりとアバウトに、頭突きで倒してたんですが本読みを経て一考しました。それで絵コンテで改めて、どうやっても死なないやつをどうやって倒したら納得できるか考えて今の形にしたと思います。場合によってはまた復活させられる含みも持たせられるし(笑)。いいアイデアだと思ったんですが、『ターミネーター』みたいだっていわれたりして(苦笑)。そこは全然意識していなかったんですけどね。

「溶けた黄金」というのもアニメで表現するのは挑戦ですよね。

処理があれでよかったかはわからないですが、セルでやるなら、ああいう方法しかないかなと。単なるセル絵の具での表現ではなく、粒子みたいなものをのっけて質感を足してはいます。

作品が完成してみて、「新しい娯楽時代劇を作る」という点ですごく達成感があったのではないでしょうか。

ありました。完成した時は、本当にベストを尽くしたということもあって「いいじゃないか」という感覚がありました。

その後、アメリカなど海外で人気が出たわけですが、そこについてはどう受け止めてらっしゃいますか。

『獣兵衛』に先だって『妖獣』が少しそういう売れ方をしていたんです。だからこういう作品のニーズはあるだろう、という目論見はないことはなかったんです。たとえば日本でも、僕らのような週刊マンガ雑誌のはしりから読んでいるようなマンガ世代は、マンガの影響をモロに受けていますよね。マンガってどこかの段階で卒業するものなのかもしれないけれど、日本の場合は、そのまま読み続ける人がいて、内容もそういう大人向けのものがどんどん出てきましたよね。僕が『妖獣』を作った時に36歳だったんですが、アニメを見てみると「よくできているな」と思える作品はあっても、自分たちの世代がそのままの感覚で見られるアニメとなるとなかなかないんですよ。だからそういうニーズっていうのは絶対あると思っているし、そこに向けて普通の感覚で見られる作品を作りたいというのがありました。それで映画として成立していれば、グローバルにも展開できるのではないかとそういうふうに思っていました。だからアメリカでヒットしたという話をきいた時は、驚くというよりは納得でした。むしろ日本でもうちょっと受けてもよかったのになぁという気持ちのほうが強かったかな(笑)。

その後、2012年4月のまず米国・シアトルで開催されたアニメイベントSakura-Conで『獣兵衛忍風帖 BRUST』の製作が発表されました。これは12月6日の「川尻善昭ミッドナイトフェス」で上映された3本が制作されています。

『BURST』は、もともと次の『獣兵衛』に繋げるためのプロモーション的なフィルムという位置づけで制作したものです。スタッフ的には、僕や箕輪くんがまだ『獣兵衛』をやって行けるかどうかを再確認する、予行演習的な側面もありました。ただ、予算的にも少し制約があったので。セリフなしで3分くらいで作ってくれってことで。

セリフなしということでしたが、キャストに山寺さんがクレジットされていますよね。

あ、セリフはないんですが、息芝居をあてていただいてます(笑)。

内容はもうシンプルなものでいこうと。

そうです。いろんな忍法を持った忍者たちと勝負をしていくと。『獣兵衛』は分かりやすいストーリーなんだけれど、同時に見たこともない世界っていうのが人気を得たポイントだと思うんです。だからそのテイストで「『獣兵衛』だったら俺、まだまだいろいろ描けると思うから」っていって、どんどん描いていったんです。最終的には原画までやってます。そこに箕輪くんが作画監督として修正を入れてくれていて。

『獣兵衛』から『BURST』まで時間はちょっと空いていますが、川尻監督の中では、ずっと『獣兵衛』の世界が生きているんですね。

そうです。『獣兵衛』の世界とは、ずっと一緒に過ごしている感じなんです。

(第一部終)