川尻善昭公式サイト

Interview

Long Interview 川尻善昭自作を語る

監督デビューとなった『SF新世紀レンズマン』から30年。そのあゆみを川尻監督自らの言葉でたどる。

取材・構成 藤津亮太
編集・構成 T.meiri

第1部『獣兵衛忍風帖』第2回 エロスとバイオレンスとロマンス

異形の忍者たちをもっともらしく描く

企画書の表紙には毒蛇使いの紅里が描かれていますが、最初からどんな忍法を出すかイメージはあったんですか。

それは、ありました。まず、こういう忍法を出したいっていうアイデアからのスタートでしたから。

では、実際にどんな忍法があるか書き上げていって……。

そうです。それは『BURST』のほうでもそうでしたね。

ボツになった忍法もあったんでしょうか。

どうだったかな……。八人衆のアイデアは最初から変えていないはずなので、大きなボツというのはなかったように思います。

80分の作品(企画時。完成作品は92分)で8人の敵というのはすごく多いですよね。

それは、それまでの時代劇になかったテンポ感でやりたかったからです。僕は西部劇、時代劇を見て育ったわけだけれど、その後、時代に合った新しい西部劇や時代劇が登場してこなかったんですよ。西部劇や時代劇から恩恵を受けた僕らの世代は、そこをやっていかなくちゃいけない。そう思っているんです。アクション映画もだと、スピルバーグの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(’81)ぐらいから、ものすごくテンポ感のあるものが出てきたでしょう。そういう感覚で時代劇を作りたいと。『獣兵衛』の後になるけれど、サム・ライミの『クイック&デッド』(’95)はすごく良かったです。過去の西部劇へのオマージュもいっぱいあるけれど、ちゃんと現代の映画になってた。ああいうふうにやっていけば時代劇も西部劇も、現代の映画として成り立つんですよ。そういう思いがあったので、現代のお客を退屈させない、テンポのよい80分~90分くらいの作品を作りたかったんです。

現代のテンポ感を持った時代劇が目標だったんですね。

8人の忍者を主人公が次から次に倒していくノンストップアクションというイメージですね。しかも自分はすごくせっかちだから、あまりひとつの戦いをダラダラ見せていく根気がないんです。(笑)。

それぞれのアクションが濃いから、尺のわりにいっぱい見たような満足感があるんですね。

う。密度が濃いのであって、それぞれのバトル自体はそれぞれ恐ろしいほど尺は短いです。

キャラクターデザインはどうやって決まったのでしょうか。

『獣兵衛忍風帖』キャラクター設定(ラフ)

絵コンテにかかる前に箕輪(豊)君にキャラデザを発注したのかな? シナリオを書いた段階で、自分で全キャラクターのラフは描いていてありました。箕輪くんのキャラデザインがどのタイミングで完成したのかは、ちょっと覚えていないですが。

イメージボード的なものは描かれたんですか?

『獣兵衛』は一切なかったですね。

アイデア的に苦労したキャラクターというのはいましたか?

全然なかったです。ただどれも、あまりキャラクターとして深くは掘り下げていないんですよね。個別にドラマがどうかっていうより、8人揃った時のバリエーション感というか、バラエティ感を大事にしたので。そのキャラクターのバランスの中に、三角関係や、獣兵衛と敵のボスである氷室弦馬の因縁といった、事の結びつきがうまく絡むことで成り立っている作品なんです。だから、どのキャラクターが特にどうというのはないんです。

印象的な忍法だと、百合丸が銅線を使った通信するのはインパクトがありました。

たとえば携帯電話が出たことで、刑事ドラマなんかの展開が早くなったと思うんですよ。『24 -TWENTY FOUR -』シリーズ(’01~)なんか、携帯がなかったら絶対に1日で終わらないでしょう(笑)。現代的なテンポ感を出すには、そういうところで何かアイデアを考えないといけないと思うんです。

獣兵衛自身は、刀を抜いて起こすかまいたちが必殺技ですね。あとは刀に結ばれたテグスを使って独自のアクションを見せます。

必殺技の名は「風斬り」です。テグスを使ったアクションは、もっと使うつもりだったんです。でも、やっているうちに、百合丸と被っちゃうと思ったんで、ちょっと抑えたんです。それで、テグスのアクションは目立たなくなっちゃったんですよね。

獣兵衛はどんなキャラクターにしようと考えていましたか。

今までの時代劇には囚われない奴というふうにはしたいなと。忍法的にはシンプルで、剣技だけで勝負するイメージですね。性格も非情さはちょっと抑える。というのも、まわりが異常な忍者たちばかりなので、その中で一番ノーマルで感情移入できるキャラクターにしておかないと、ちょっと訳の分からない世界になり過ぎちゃうかなっていうのがあったので。企画書に描いた顔なんかは、基本は同じだけれど、今よりももっと健康的な雰囲気の顔をしています。

主役はシンプルで、わかりやすいキャラクタ-にしようと。

『獣兵衛』は、荒唐無稽な忍法使う連中の話ですよね。まかり間違えば、大嘘っぱちで、子ども騙しみたいなものだと思われて終わってしまう危険性のある企画なんです。だから、荒唐無稽なんだけれど、それをリアリティのあるものとして感じてもらわなければだめだと考えました。では、どうすればいいか。そこで、リアリティのボルテージをまずぐっと上げていくことにしたんです。スピード感も含めて、物事の起きる定位置をうんと高いところにして、そのボルテージを維持していけば、どんなことがでてきても、リアリティあるように感じてもらえるだろうと。だから、最初のアクションはそこを意識して演出しました。

最初のアクションというのは、橋のところで道陣たちとやりあうくだりですね。

あそこで獣兵衛は、おにぎりを放り投げて落ちてくるまでに敵を倒してますよね。最初に大ウソを高いボルテージで見せてしまうことで、この作品の世界観に引きずり込もうと考えたんです。勝新(勝新太郎)の『座頭市』には、一瞬でものすごい剣技を見せるシーンが出てくるでしょう。あれをもっと高いボルテージにしたようなイメージですね。そこから始めないと、全てがウソに見えてしまうだろうと。それがあるから甲賀組の忍者と鉄斎の戦いも、一定のリアリティの中での迫力として受け取ってもらえるかなと。

甲賀組がものすごい数の手裏剣を放つところですね。

忍者がああやって手裏剣を放つのは『隠密剣士』(’62、連続TV時代劇)以来のパターンですよね。忍者ものをやる以上、それはやりたい。でも『隠密剣士』のころだと、手裏剣が3つぐらいカカカッと刺さるのを、編集で見せるぐらいだった。あれは子供心に「ちょっと情けないな」と思っていた(笑)。だからこちらでは、もうとんでもない速さで、マシンガンみたいに突き刺さるようにしようと思ったんです。でもいきなりそれを見せても、ウソって思われてしまう。最初に獣兵衛のおにぎりのアクションを見せておけば、この作品なりのリアリティの範疇で、迫力として受け取ってもらえるだろうと。

エロスとバイオレンスとロマンス

テンションが高いアクションというと、現夢十郎と獣兵衛が竹林で戦うシーンも、刀をものすごいスピードで撃ち込んでいますよね。

あれも実際の動きから言ったら無理な話なんですよ。でも既にマシンガンの手裏剣が出ているから、あそこまで行かないと夢十郎がすごいやつに見えないんですよね。あっという間に3人を倒してしまうような獣兵衛が苦戦している相手ですよ。相当なものを見せないとそういう雰囲気が出ません。あそこは中(中割。原画と原画の間をつなぐ動画のこと)がほとんど入ってないですね。

そういう動きのイメージを伝えるのに、ラフ原画を描かれたりはしたんですか。

どうだったかなぁ。あそこはラフは描いていないと思います。原画をもらって、原画の絵は生かしつつ、タイムシートでタイミングをいじってます。

『電脳都市OEDO808』キャラクター設定(ラフ)

『妖獣都市』の時は作画監督も兼ねられていましたけれど、『獣兵衛』に至る過程で、さまざまなアニメーターさんと組んで仕事をするようになられていますよね。それはやっぱり、そういうケレン味のあるアクションをこってり見せるとなると、ひとりでは無理ということだったんでしょうか。

『妖獣都市』をやったころは、ああいうスタイルを描く人があまりいなかったんです。でも、あれを業界の人たちも結構見てくれて、川尻スタイルというのをだいぶわかってくれたんですね。それで『魔界都市<新宿>』の恩田(尚之)くんにしろ、その後の『MIDNIGHT EYEゴクウ』『電脳都市OED0808』の浜崎(博嗣)くんにしろ、『獣兵衛』の箕輪くんと組めるような流れができた。みな、僕よりも絵がうまいからね。だからうまい人にどんどん描いてもらおうと思ったんです。

2枚目
『妖獣都市』 絵コンテ

箕輪さんとの接点は、OVA『ロードス島戦記』ですか?

そうですね。『ロードス』で彼が描いた絵を見せてもらったら、俺よりも全然上手いやって。絶対にこの作品には合う絵だなと思ったんです。決まるまで少し時間があったんだけれど、最終的に引き受けてくれてよかったです。

箕輪さんの絵は、川尻さん自信の絵とはまたテイストが違いますよね。箕輪さんのほうが“濃い”です。

『獣兵衛忍風帖』キャラクター設定(ラフ)

僕の絵はわりとシンプルだからね。箕輪くんのディテールの濃さみたいなものを気に入ったんだと思う。そういう画風を生かした作品にしたいなって思って、参加してもらったんです。

箕輪さんのキャラクターのデザインはスムーズでしたか?

『獣兵衛』に関しては、僕のラフデザインをかっこ良くまとめてくれた感じで、何度もリテイクもみたいなことはなかったです。そういえば獣兵衛の色は、箕輪くんが今の色でいきたいって主張したんです。僕はもっとブルーグレーみたいなイメージだったんだけれど、箕輪くんが茶系でいきたいと。

そういう濃いキャラクターでケレン味のあるアクションを描く一方で、作品的には獣兵衛と陽炎のロマンスが重要な要素として入っています。川尻監督の中に、実はロマンチック志向もあるのなかと思ったのですがいかがですか。例えば場面構成で参加された『夏への扉』は少女マンガの繊細な雰囲気を丁寧に拾っています。

どうでしょうね。僕は基本的になんでも好きなんです。特に虫プロに入って以来、原画マンの間は絶えずいろんな作品をやってきているんです。だから、いろんなジャンルに対する対応力はあるつもりなんです。『夏への扉』は監督が真崎守さんですよね。私は、真崎さんのマンガがすごく好きで、ファンだったんです。コマ割りも斬新でかっこよくて。ただ雰囲気は男っぽいんですよ。ご本人も少女マンガのリリカルな感じは苦手っておっしゃっていて、「川尻好きにやってみて」って言われたんです。それで原作の竹宮(惠子)さんの世界を意識しつつ描き出したら、「案外いいんじゃない」っていうことになって、真崎さんからどんどん描いてって言われた。当時はそういう感じでやったと思います。だからいろんなジャンルを面白いって思える感覚はあると思うし、最近だったら『ちはやふる』を読んでジーンとしたりしましたしね。

『ちはやふる』ではかなりの数の絵コンテを担当されていましたね。

まず原作がおもしろかったからね。ああいうのはすいすい描けちゃう(笑)。

企画を立てる時に、ロマンチックな要素は必要だと思いますか。

そうですねぇ。プロデューサーは「ヒロインはどういう設定なの?」って聞くだろうしね(笑)。

2枚目
『妖獣都市』 絵コンテ

『妖獣都市』の中にあったロマンチックな要素が、『獣兵衛』にも受け継がれたようにも見えるのですが。

エログロバイオレンスとピュアなロマンスとの対比は、この手の作品にとっては不可欠な要素だと思ってます。僕が大好きな映画のひとつに、アルドリッチの『北国の帝王』(’73)があるんですが、あれなんか女なんかろくにでてこないすごく野蛮な映画(笑)。ああいうのも大好きなんで、いっそ、おっさん主人公で、女性キャラクターなんか付け足し、みたいなものも作ってはみたいですけど……アニメの企画では絶対に通らないでしょうね(笑)。

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