川尻善昭公式サイト

Interview

Long Interview 川尻善昭自作を語る

監督デビューとなった『SF新世紀レンズマン』から30年。そのあゆみを川尻監督自らの言葉でたどる。

取材・構成 藤津亮太
編集・構成 T.meiri

第1部『獣兵衛忍風帖』第1回 今なら好きなことができるかもしれない

『獣兵衛忍風帖』という企画

「自作を語る」という観点で順番にお話をうかがっていきたいと思います。まずは『獣兵衛忍風帖』から聞かせてください。

はい。

『獣兵衛』は’93年の公開ですが、企画書を書かれる時点で、どうして時代劇という題材をチョイスされたのでしょうか。

わざわざ時代劇をチョイスしたという感覚じゃないんです。自分自身が時代劇、西部劇のTVシリーズで育ったところがあって、そういう自分が楽しませてもらったジャンルのものを作ろうっていう感覚で、それが一番大きかったと思います。『妖獣都市』、『ゴクウ』、『CYBER CITY OEDO 808』と作ってきて、世間にも作品の面白さを認識してもらったという感覚があったんです。だから、今なら本当に自分が好きなことができるかもしれない、そう思って企画書を作ったんです。

『CYBER CITY OEDO 808』 絵コンテ
『妖獣都市』 レイアウト 『CYBER CITY OEDO 808』 絵コンテ

それまでは依頼のあった原作と川尻監督のやりたいことを、すり合わせて監督していたわけですね。

そうですね。それまでもいくつかの企画を当時のプロデューサーに「こういうのをやりたいんだよね」と話したことはあったけれど、こちらにもバリューがあるわけではないし、そんなのは難しいなぁという状況でしたから。

2枚目 3枚目
『獣兵衛忍風帖 企画書』

企画書は川尻監督がワープロで書かれたんですか。

いや、私がメモをつくって、それをプロデューサーがまとめてくれたんです。「見せ場は忍法ウォーズ」と書いてあるセールスポイントとか、だいたいのプロットについては、もとを書いたのは私のほうですね。

表紙は獣兵衛と鬼門八人衆の紅里ですが、これは最初に何かイメージ的なものとして描いたわけですね。

そうです。雰囲気はもう本編とそう違わないですね。

企画書の段階で企画を通すために何かを変えた、みたいなことはなかったんですね。

全くなかったですね。

企画書だと80分と書かれていますが、前後編の2巻構成でリリースしようとした時期もあったのですよね。

前後編というのは、もともとの話ではないです。途中でそういうリクエストがきて、一応それも検討しました。絵コンテもそれに対応できるようには切ったんです。蟲蔵を倒して、弦馬が生きていることを知ったあたりに「前後編にするならここで」みたいなことを書いた記憶はあります。……いずれにしても『妖獣』からの流れで好きなものをやらせてもらいたいな、ということで企画書をまとめたんです。

企画そのものは、早く決まったんですか。

結構早く決まったんですよ。プロデューサーが「決めないとウチの会社が年を越せない」とか言って(笑)まあ、これは、いつものことなんですけど(笑)それで現場が動き始めたんです。決して余裕がある現場じゃなかったので、参加してくれたスタッフには本当に感謝です。

ルーツは『伊賀の影丸』と『忍法帖』

先ほどルーツとしてTVの西部劇や時代劇というお話がありましたが、『獣兵衛』の「忍法ウォーズ」というイメージはどこから生まれたのですか。

やっぱり直接は山田風太郎の『忍法帖』シリーズの影響がものすごく大きくあります。ただそれ以上に、横山光輝の『伊賀の影丸』や貸本の忍者漫画、そっちのイメージがまず強くすり込まれているんです。

『忍法帖』シリーズが1950年代末に始まり、1961年から少年サンデーで連載が始まった『伊賀の影丸』はその影響を受けているといわれていますね。

そうなんです。だから自分としてはまず『伊賀の影丸』から入った世代だった。『伊賀の影丸』で、互いに忍法を駆使して戦いあい、殺された忍者の名前が消されてゆく展開にはすごくワクワクしたのを覚えていますね。本当に夢中になって読んでいたので。それで、後に大人になって『忍法帖』を読んで、「ああ、ここがルーツなのか!」って“発見”をしたわけです。

2枚目
『獣兵衛忍風帖 企画書』より 企画意図

山田風太郎を読まれた時はどうだったんでしょうか。

こんなすごいことを考えている人がいるんだ、って思いました。ものすごく刺激を受けて、いつかこういう世界を形にしてみたいと思ったんです。当時の山田作品といえば角川映画の『魔界転生』(’81)もありましたが、特撮技術も今ほどのレベルではなかったし、アクションが見せ場になる『忍風帖』の世界を映像にするなら、アニメーションという手法で見せたら絶対におもしろくなるぞ、と思っていました。

『獣兵衛』に出てくる忍法も理屈よりイマジネーション優先ですよね。

『忍法帖』を読んでいると、これを文字でなく絵にしたらもっとインパクトがあるよなって思っていたんです。だってそんなビジュアルを誰も見たことがないわけですよね。それに是非とも挑戦したかった。

『獣兵衛』の場合、脚本というのはどんな感じで書かれるのですか。いきなり絵コンテに入ったりするのでしょうか。

『獣兵衛忍風帖 企画書』より
ストーリー

絵コンテにいきなり入る場合もありますが、やっぱり関係者用に脚本を求められることもあるので、まずはちゃんと文字で書きます。『獣兵衛』は構成にすごく時間がかかったんですが、物語の組み立てが出来上がってからは、相当早く書き上がったはずです。

構成で苦労した、というのはどういうことでしょうか。

まず、大前提として忍法ウォーズをやりたいというのがあるわけです。すると7人とか8人と主人公1人が次々戦っていくという構図が必要になる。それをどういう骨格のストーリーに収めていくか、そこでいろいろ考えたんです。

主人公の獣兵衛は巻き込まれ型の主人公ですよね。

そもそも時代劇を作ろうって考えたころは、今の『るろうに剣心』(’12)みたいに若者向けの時代劇っていうのは全然なかったんです。だからそういう時代劇に馴染みのない若者に見てもらうならどういうものがよいか考えたんです。本来なら山田風太郎の『忍法帖』をアニメ化するっていうこともあったんでしょうけど。でも『忍法帖』は、史実を背景にしているものも多くて、若い人には入りづらいんじゃないかと。そうして考えていくと、時代背景や史実に囚われない設定を作って、主人公も組織の中の人間ではなく、より現代人に価値観の近い、そういう主人公にしていこうと考えたんです。そういうほうがアニメーションとして観客に興味をもってもらえるんじゃないかと。

それで獣兵衛ははぐれ忍者という設定になったんですね。

2枚目
『獣兵衛忍風帖』 キャラクター設定

名前はもちろん柳生十兵衛からきているわけですけど、境遇は組織とはなんの関係もないフリーランスの元忍者。しがない探偵みたいなものです(笑)。なんでも引き受けますけど、ただし厄介事はごめんだよというスタンスで。そこにいうなればCIAとテロリスト集団の対立構図をつくって、主人公を放り込むと決めたんです。

獣兵衛が公儀隠密と鬼門八人衆の戦いに巻き込まれる直接の仕掛けとして、公儀隠密の濁庵に毒を盛られるという展開があります。

厄介事がいやなキャラクターだと、対立構図の中にいさせ続けるための工夫がいるんです。それで毒というアイデアを思い付いたんですが、あれは『ニューヨーク1997』(’81)と同じ構図ですね。

『ニューヨーク1997』の主人公スネークは、体内に24時間後に爆発する小型爆弾を仕込まれていましたね。

そうなんです。ただ毒であれば、単なる小道具以上に使えるなと。『妖獣』の時もそうだったんですが、『獣兵衛』もエロスとバイオレンスの中にロマンチックさがある作品にはしていきたかったんです。だから毒を、事件に巻き込まれるだけでなく、ヒロインの陽炎との接点として使うと決めた時点で、全体の大まかな構成は見えたんです。そこまで組み立てができれば、あとは絶対に獣兵衛が勝てそうにない奴らを、どう倒していくかを考えていけばいい。

そういう流れで全体像が出来上がっていったんですね。

僕は、どうやって強い奴らを倒していくのか、そこを考えるのが好きでしたね。

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